発達障害もち薬剤師の随想録

発達障害を併発する薬剤師である筆者が、ADHD気質からの多くの経験から思う事をASD気質で書くブログです

美味いラーメンの良さがわからない!?

ADHD気質さまさまで全国色々な場所に住んだが、そこで必ずやったのはラーメン屋開拓であった。

 

気候の違いや醤油文化の違いなど、ラーメン一つ取ってもその地域の特性がにじみ出ており非常に面白い経験ができたと思う。

 

ラーメン屋巡りを始めたのは大学生のときであった。くしくも大学の最寄り駅周辺がラーメン激戦区であったこと、体力と食欲旺盛な学生であったことも相俟って友人とラーメン屋巡りに繰り出したものである。

 

ある時は真冬の北風が吹きすさぶ中で開店1時間半前から並んだり、大雨の中で傘を差して並んだりと体力だけが取り柄の20代だからできたことではあるが、とにかく人気店を探しては食べ歩いていた。

 

ある時、ラーメンを普段はあまり食べないという友人を連れて人気店に行ったことがある。

 

第一印象である一発目が肝心であるから慎重に店選びをした。しばらく並んでから食べて感想を聞いてみたが、普通かなという顔をしていたのに驚いた。

 

他の店にも連れて行ったが、同じような顔をしていたのでさすがに自分の感覚を疑った。知名度や行列に左右されないように大将の仕事の丁寧さ、例えば麺の湯切りにテボを使うか平ザルを使うかなど総合的に加味して選んだ店であったので危うく自信を喪失しかけたものである。

 

そこから数年して当時の在住地域の名物料理の店巡りをした。ラーメンではないがいわゆるB級グルメである。人気の店や老舗を巡ること数多を経て、ふと思い立って最初の頃に行った老舗にもう一度足を運んだ。当初ここでは何が良いのかわからず、店巡りの候補からしばらく外していたのであった。

 

運ばれてきた料理を一口食べて目を見張った。美味い。その料理は焼く料理であったのだが、そもそも「焼き」が他の店とは明らかに違う。それも一口食べてわかるほどに明白であった。なぜ、これに気づけなかったのだろうかと考えて、数年前に友人をラーメン屋に連れて行った時のことを思い出したのである。

 

この時の私を含めて2人の共通点は「美味いモノを十二分に食べていない」ことである。

 

普段からゲテモノばかり食べているという意味ではなくラーメンならラーメン、名物なら名物の人気店や老舗の味を全く知らない、要するに「美味い」という味の基準が全く出来ていない状況であったということだ。

 

味の基準は店の1つや2つ行ったくらいでは出来上がらない。数をこなすことにより出来上がってくるものである。

 

しかも美味い店ばかり通っているので、自分が食べている物が本当に美味いのかさえわからない。

 

つまるところ料理自体は中立でありその味に美味い美味くないは無く、受け取り手の基準によって変わってしまうということである。

 

これは良い道具を使う場合とよく似ているのではないかと思う。

 

工具を使う作業をしていた時はプロ用の道具を使用していたが、代用の安物は全く使い物にならず私の求めるものに全く応えられないので腹が立って投げつけようかと思ったほどである。

 

また私はいわゆるガラケーから初めてのスマホに替えてから10年来のiPhoneユーザーであるが、ある時その高額に耐えかねて安いアンドロイドに替えたことがあった。安いと言っても3万は下らない国内メーカーの物である。しかし、カメラの性能やちょっとした使い勝手、今までなら何ら苦労しなかった場所で四苦八苦してしまい結局1年を待たずして手放してiPhoneに戻ってしまった。特に暗所でのカメラ性能にはその価格差に納得せざるを得ないことを実感したものである。

 

往々にして良い道具とは使っている間は良さがわからず高額であることに疑問を持つが、使えなくなって初めてその価値がわかるものであると思う。しかし逆に良い道具を使ったことが無い人にとってはただ値段が高いだけの代物になってしまうことであろう。

 

美味い店ばかり通った後に妙な店に行ってしまって、初めてその違いがわかるものなのだ。

 

この味なり良い道具なりの「基準」を作ることは非常に大切であると考えている。

 

それには数をこなすしかない。しかし方向性を絶対に間違ってはいけない。不味いものや悪い道具ばかり使っているとこちらの基準が出来上がってしまう。

 

何が良いものか見極めることは非常に難しい。他者の評判や行列がアテにならないことなどザラである。テレビに出れば嫌でも行列が1ヶ月以上は続く。

 

やはり小さい頃から本物に触れておくのが理想的なのだろうと思う。醤油なら醤油で安いサッカリンまみれの醤油ではなく小豆島のヤマロク醤油の菊醤や鶴醤のような本物の醤油に触れる、道具は全てとは言わないが自分の中で「これだけは外せない」と思うものに関しては筆一本ニッパー一つで良いのでプロ用を揃えておくなどすると本物を見抜く目を養うことができる気がするのである。

 

(おわり)